花の魔女
すぐ側にあった貯水池の水を、兵士たちに向かって浴びせかけた。
たいしたことのない攻撃だったが、兵士たちが驚きにまごついているうちに包囲から抜け出した。
抜け出したはいいものの、それに気づいた兵士たちはやはり追いかけてくる。
壁の蔦で兵士たちの邪魔をしながら塔に向かったが、数がいるだけに手に負えない。
後ろから矢が数本飛んできて、青ざめたそのときだった。
突然ナーベルのすぐ後ろで、轟音とともに石壁が崩れてナーベルと兵士たちとを引き離した。
「これは…」
いきなりのことに目をぱちくりさせていると、おほほほほ、と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ナーベルさん、お怪我はない?」
日傘をくるくるまわしながら、小道からアナベラが姿を現した。
彼女とサイラスは囮になって逃げまわっていたはずなのに、アナベラは疲れた様子もかすり傷もなく、余裕の表情で日傘なんかを差している。