花の魔女
母の愛
フィオーレに飛ぶようにして連れていかれたのは、泉、かと思いきや、なんとつい最近までナーベルが暮らしていた村だった。
冬の装いをした家々の間を、元気な子どもたちが縫うようにして雪を投げあいながら走りまわっている。
「ど、どういうことなの、フィオーレ。私、ここにいたらちょっとまずいのよ。誰かに見つかったりしたら困るの」
ナーベルを引っ張っていくフィオーレの背中に焦りながら言うと、フィオーレはにっこりとして振り返った。
「ラディアン様のお母様を恐れているのでしょう?」
「え、ええ……」
ナーベルは眉を下げてこくりと頷いた。
大切な息子と共に姿を消した娘なのだから、なんと言って責められるかわからない。
しかしフィオーレは大丈夫ですわ、と呑気に微笑んでいる。
「まずいことなんてありません。こうなってしまった以上、いくら母君でもナーベル様を蔑ろにはできませんわ」
自信ありげなフィオーレに、ナーベルはぱちくりと目を瞬かせた。
その間にも、フィオーレはぐいぐいとナーベルを村の中に引っ張っていく。
もう誰に見つかってもおかしくはない。
ナーベルは意を決して、どうにでもなれという気分で歩を進めた。
雪を踏みしめる音が異様に響いているように感じる。
やがて自分の暮らしていた家が見え、ナーベルがごくりと唾を飲んだとき。
「あら、ナーベルさんじゃないの。お久しぶりねぇ」