飴色蝶 *Ⅱ*
庵は、テーブルに置いた
飲みかけのグラスの氷を
見つめながら

酒に酔っているのか
頼りない声で呟いた。

「すみれとは、別れたよ
 もう、随分と前に・・・」

朱莉は驚きを隠せずに、庵に
問いかける声も大きくなる。

「嘘でしょう
 ・・・どうして?」

「俺が、この世界で生き続ける
 限り、アイツは
 俺のものにはならない・・・
 
 俺なんかのものに
 ならない方がいい」

寂しい瞳で、そう呟く庵を朱莉
は放ってなどおけない。

朱莉は隣に座り、グラスを持つ
庵を両腕できつく抱きしめた。  

「シュリ?」

庵はグラスを、そっとテーブル
に置いた。
  
庵の肩を、彼女の涙が濡らす。

朱莉の優しい声が聞こえる。

「私なら、貴方がどんなに
 薄汚れた世界でボロボロに
 なって生きていても、ずっと
 傍に居てあげられるよ
 私達は同じ穴の狢(むじな)
 あなたを
 絶対に一人にさせない」
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