~秘メゴト~

あこがれ。

「…かみりょお、ゆう。せんぱい…かぁ…」


 教室の机に突っ伏して、溜め息とともに独りごちる姫乃。


「やっまもっとさぁ〜んっ!」

 ばん、と突然肩を叩かれ、姫乃は飛び上がらんばかりに驚く。

 振り向くと、そこには同じクラスの成澤の丸い顔があった。


「ねえねえ、山本さんてさ、上領先輩のファンなんでしょ??」

「ええっ!?」



 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 なんで、バレてんの!? 私、そんなに露骨!?



「どっ…どうして…」

「そりゃ、なんとなく。だって山本さん、帰宅部のクセにいつも残ってサッカー部の練習観て帰るし」

「あっ…」

「しかも、ゴールポスト方面しか見てないし」

「ううっ」


 成澤に図星を突かれて思わず赤くなる。


「でねっこれ、買わない?」


 そう云って差し出されたのは一枚の写真だった。


 ――少し腰を落として一点を睨み据えている、キーパー姿の上領 有。

 凛々しい眼差しが、とても良く映し出されている。

「買うっ!! 是非っ買わせて! 幾ら!?」

「んじゃ、10円で」

 姫乃のお財布を探す手がぴたっと止まる。 

「―…は?」

「10円でいいよ」

「…安すぎない?」


 仮にも、モデルは私の大好きな上領先輩なのよ? 余り安いのは複雑ってもんよ。


「いーの。その代わり、今度山本さんの写真撮らせてよ?」


 首を傾げてベビーフェイスの大きな目をくりくりさせ、成澤はおねだりのポーズをする。


「…はい?」


 私、写真撮られるの苦手なんだけど。

 いや、そもそもどーして私の写真が撮りたいの…?


「いやあ、山本さんの写真、めっちゃ売れんのよ。いつも儲けさせて貰ってるの。だから今度は隠し撮りじゃなく、ちゃんと撮らせてね」


 成澤は姫乃の手から10円を取ると、代わりに写真を握らせ。


「じゃ、そーゆーことで。まいどぉ!」


 片手を上げて、去っていった。




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