~秘メゴト~
 後に残された姫乃は暫し呆気にとられ、成澤の去っった教室の出口を眺めていた。

 入学して3ヶ月。

 周囲はカレシカノジョが出来たと騒いでいたり、恋愛話に花が咲いてはいたが。

 姫乃自身には特別言い寄ってくる男子もいなかったので、自分はモテないものだと思い込んでいる。

「…ま、いっか」

 思考を切り替え、姫乃はいそいそと生徒手帳を取り出した。

 生徒手帳の裏表紙には、校舎の窓からこっそり撮った小さなユニフォーム姿の有の写真が大事そうに張られていた。

「ふふっ」

 姫乃はソーイングセットの中から鋏を取り出して、丁寧に成澤の傑作をカットし、裏表紙の写真と入れ換える。

 小さな有の写真は、中表紙へと引っ越すこととなった。

「うへへ〜」

「…なに笑ってんの?」

 わっと顔を上げると、今度は瑠璃が目の前に立っていた。

「成澤さんから上条先輩の写真買っちゃった」

 デレデレ顔で生徒手帳をぴらぴら翳す姫乃に、瑠璃は冷ややかに言い放つ。

「…500円?」

「ううん、10円」

「10円ん!? あの成澤さんが!?」

「ほんと」

「見返りは何?」

「…今度、私の写真撮らせてって」

 聞くや否や、瑠璃は姫乃の前の席にどさっと腰を降ろした。

「くっそ。いい商売だ」

 疑問ありありの目で、姫乃が瑠璃を見詰める。

「姫乃の写真売れるよ。もてもてだもん」

「…ええぇっ、でも私、告白とかされたことないよ!?」

 小学生の頃から周囲には何組かの早熟カップルがいるにはいた。が、姫乃にはさっぱりそんな話もなかったのである。

「ひぃちゃんは高嶺の花だからね。男子だって、余程自分に自信がない限り、告白なんてしてこないよ」

 信じられない。といった風に、姫乃は眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。

 そんな彼女を見て、瑠璃はぷっと噴き出した。

「そういう鈍感なとこがまた可愛いのよね。憎めないわ〜」

 瑠璃は、柔らかなセピア色の頭をぽんぽん叩く。

 直毛茶髪の彼女は、昔から姫乃のくるくるした黒茶の髪に憧れていた。

「ひぃちゃんは、あたしの自慢の幼馴染みだよ」

 花のように愛らしい姫乃の顔がみる間に真っ赤に染まった。
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