~秘メゴト~

夢のような

 初夏の夕暮れが空をオレンジに織り成す。

 まだほんのりと冷気を孕む風が、格技場を後にしたばかりのほてったふたりの頬を撫でていく。

 ふたりは肩を並べて家路を往く。

 微妙な距離を保ったまま。

 躯の繋がりはあるけれど。

 恋人同士という訳では、ない。

 どれほどの甘いときを重ねても、「好き」という言葉がなければ、手に触れることも出来ないのだ。


 臆病な恋。

 満たされない想い。



 先輩は、どうして私を抱くの?


 私を抱きながら、先輩は松本さんともくちづけを交わす。


 私のはじめては、無理矢理だった。

 けれど、さきほどの先輩は…少し、優しく私に触れた。


 私、どうしたらいいの?

 先輩を、好きでいてもいいのかな―――?





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