~秘メゴト~
 初めて先輩の家に来て早々に、私は大きなビロードのソファの感触を直に肌で感じる羽目になってしまった。


 彼の腕枕に抱かれて、夢うつつを彷徨いながら心地良いひとときを過ごす。

 先輩って、体力あるなぁ…。

 朦朧とした意識下でそんなことを考える。


 そっと、頬の下の象牙色の肌を撫でてみた。

 先輩の肌は滑らかで、ほど好い筋肉を包んでいる。

 恐る恐る、その先の掌まで指を這わせる。


 そうして辿り着いた長い親指を、私は両手できゅっと握り締めた。

 すると、ゆっくりと先輩の指が私の両手を包み込んだ。



 先輩との関係がおかしくなり初めてから、私は彼への恋心を努めて表に出さないように抑えていた。

 ひとときの、悪い偶然の激情を理由に、先輩を私に繋ぎとめてはならないから。

 私の想いを知れば、彼は尚更負い目を感じて私から離れられなくなり、余計に苦しむかも知れない。

 彼とのおかしな関係の終わりを決めてからは特に、この切ない想いを押し殺してきた。


 けれど、今。

 触れた彼の肌が温かくて幸せで。

 包み込んでくれた手が優しくて。



 私は溢れ出る愛しさを抑えきれず、彼の指にそっと震える口唇を押し当てた。

 いっぱいの愛を込めて。



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