~秘メゴト~
「ねえ…せんぱい?」

「…ん?」


 先輩の匂いに包まれながら、至福のひとときを味わっていた私だったけれど、ふと疑問が湧いてしまった。


「おなか…だいじょぶですか?」


 瞬間、先輩はぶはっと吹き出してしまった。

 …私だって、今の雰囲気でこのタイミングでこう切り出すのはどんなもんかと思ったけどね。

 お腹空いた、って云ってたじゃないぃ。


「あんた、イロケねーなあ」

「だっだって」

「ま。腹減ったのは確かかな。思い出したのは今だけど」


 そうニヤっと笑って先輩は起き上がり、ついでに私の肩も抱いて起こしてくれる。


「あ…じゃあ。キッチンお借りしマス」

「その前に借りる所、他にあるんじゃない? …シャワーとか」


 また悪戯な笑みで私を見下ろす。

 …私をからかって遊んでいるんだ。意地悪なんだわ、先輩って。


 でも、私はこれまでこんなに笑っている彼を見たことがなかった。

 だから、意地悪でもからかわれていても、何となく嬉しいの。

 つい、顔が綻んでしまう。

 くすくすと心の奥から温かな幸福感が込み上げてくる。

 なんだか、あんなに遠い存在だった先輩が近くに感じられるのはおかしいかな?


 折角、そんな滅多に味わえない幸せに浸っていたのに、先輩ったら。


「おい、ニタニタ笑ってないで、さっさとシャワーして来いよ」


 バサッと勢いよくバスタオルを被せられ、私の視界は一気に真っ暗。


 私の幸せムードもぶち壊しよぉ…。



 かくして、私はまたもやシャワーを浴びる羽目になったのだった。





.
< 126 / 169 >

この作品をシェア

pagetop