~秘メゴト~
 けれど、語り終えて振り向き、自分を見る私の強張った困惑顔に気付くと、彼はぷっと吹き出して私の頭をくしゃっと撫でて、その胸に引き寄せてくれた。


 もしも、家族と離れ離れに暮らさなければならなくなったとしたら、私はどうするだろう?

 何を思うだろうか?


 お母さんの美味しいごはんを食べられなくなったら?

 お父さんの晩酌の相手が出来なくなったら?

 お兄ちゃんと喧嘩したり、一緒にゲームしたり出来なくなったら?


 想像しただけで、足元ががらがらと崩れ落ち、自分が頼りなく空虚な存在に感じられて、私は思わずぶるっと身震いした。

 自分で自分を抱きしめたくなるような孤独感に襲われる。


 私の頭を引き寄せてくれる先輩の温もりが唯一確かなものに感じられて、それに包まれる安心感にほっと息を吐く。

 先輩は、こんな想いを小学生頃のから味わっていたのだろうか?


 「もう慣れたから」と云って、どんな感情も表さずに穏やかに微笑む彼だけれど、全く平気なんてことはないんじゃないかしら。


 先輩の他人を寄せ付けない雰囲気は、必要以上に人と親しくなることを避けているように感じる。

 大切な人を失う怖さをしっているから。

 もう二度とそんな恐ろしい想いを味あわない為に。




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