~秘メゴト~
「それは、ユウが付けた痕なの?」


 私への伸ばしていた手で自分の髪を掻きあげながら、松本さんは問うた。


「あっあの」


 なんて答えたらいいのか判らない。

 恥ずかしさが込み上げて、頬がかっと熱くなった。


 やだ、服で隠せないところにも痕が残っていたなんて。

 気付かれたのが女のひとだったとしても、恥ずかしいことに変わりはない。


 これは、つい先日に先輩と触れ合ったときに付けられたものだろう。


 彼は私を抱いた後、必ず紅い印を幾つか残していく。

 胸に、鎖骨に、首筋に。

 まるで、彼が触れた証拠を示しているかのように。


 そして、その花びらのような痕が淡く消え入りそうになったとき、彼はまた私に触れるんだ。



 彼が私の身体に刻む花びらは、微かに痺れるような甘美な痛みを伴う。

 それは、私が先輩に愛されているかのような錯覚を与えては、雪のように儚く消えていく。


 胸の痛みを 残して。



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