~秘メゴト~
『…姫乃? 大丈夫か?』


何を答えたらいいのか考えているうちに、つい押し黙ってしまっていると、先輩が心配そうに訊いてきた。


『おまえ、今何処にいる?』

「え…あ、あの。美術室…かな?」


 先輩が私のことを『おまえ』と呼ぶのは初めてだ、なんてぼんやりと考えていた。


『は? 美術室? 旧校舎の? なんだってそんなとこに…』

「うんっと。なんとなく?」


 なんでって、理由までは考えてなかったよ。

 松本さんに呼び出されたなんて言えないし。

 さっき彼女に『ユウに告げ口する?』なんて嫌味な云われ方をされた以上、意地でも先輩に話すつもりはなかった。


『……いい、今から迎えに行くから、そこ動くな』

「ええっ? いいよっ! 今 瑠璃と一緒だし……って切れちゃった」


 意外にあわてんぼっていうか、心配性っていうか。

 そんな私たちのやり取りを聞いていてか、瑠璃がぷっと噴き出した。


「ほらね。姫乃は大切にされてると思うんだけどね、あたしは」

「けど…」

「松本さんの云うことなんか話半分に聞いてていいんじゃない? あの人、姫乃から先輩を奪おうと必死なだけじゃん?」

 そう言い残して、瑠璃は手を振って美術室から出て行った。






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