~秘メゴト~
 ほどなくして先輩はやってきた。

 肩で息をして。

 髪を乱して。


 …わたしの、ために…?



「なにかあったのか?」

 こちらに近付き、先輩は両手で私の頬を包んだ。


「…目が赤い」

「えっ」


 慌てて顔をそらそうとしたけれど、彼の手がそれを許してはくれなかった。


「やだ、離して…」

「泣いたのか」

「…何でもないです」

「何でもないことないよな。姿が見えないと思ったら、こんなところで泣いてるし」

「…瑠璃と、話をしていただけだから」

「松本に何を云われた?」

「えっ?」

「松本に呼び出されたんだろう。おまえのクラスの奴から聞いた」

「……別に何もありませんでした」


 ああ、私ったらなんてつっけんどんな言い方を。

 先輩はわざわざこんなところまで駆け付けてくれたのに。

 本当は、涙が出そうなほど嬉しいくせに。

 私ってば、素直じゃない。


「それに、今そこでおまえの友達に釘さされた」





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