~秘メゴト~
「瑠璃に…なんて?」


 先輩は思い出し笑いをしている。


「んー内緒」

「気になるんですけど」

「おまえも松本とのこと話してくれないし」

「それは...別にたいしたことじゃなかったから」

「でも、泣いてた」


 そう云って、先輩は私の目の下に軽くキスをした。

 柔らかい唇がふんわりとくすぐる。

 
 そんなに優しくされると、勘違いをしてしまうよ。

 彼に愛されてると錯覚してしまう。


 突然、松本さんの声が耳の奥で響いた。


『あなたに触れたその手で、私に触れることもあるのよ...』



「......いや...」


 
 いやだ。


「え?」


 先輩は、私のものじゃない。

 私だけのものじゃないんだ。


 この手も。

 この口唇も。

 彼の心も。

 私のものじゃない。


 そう思うと、身体の中心をなにかに鷲掴みにされたような痛みをおぼえた。


 いたい。

 
 .....きたない。


 くるしい。


 .....ああ もういや。


 

「...わたしに、触れないで...」








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