~秘メゴト~
私は力いっぱい先輩の胸を押し、その腕から逃れた。


「ひめの?」


 彼は少し蒼褪めて、訝しげに首を傾げている。


「……もう、いやなんです」


 みるみる曇って冷たくなっていく彼の表情。

 それが怖くて、私は顔を伏せた。


 けど、もうイヤなんだ。


 松本さんに関わるのも。


 カラダだけの関係も。


 先輩を好きになりすぎていく切なさも。


 想いを伝えられない自分も。


 先輩を信じきれないことも。


 愛を、錯覚してしまうことも。





 なにもかも 消えてしまったっていい。



 私はこの心のなかに在るざわめきを、永遠に封印したいと思った。






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