~秘メゴト~
「わたし、もう、先輩と一緒には。...いられません」


 顔を伏せたまま、じりじりと後退さる。

 出口へ向けて。


「待てよ、なにがあっ」

「もお、だめ。耐えられないの!」


 先輩の、私へと伸ばしかけた手が止まる。


「......先輩は、どうして私に触れるの?」

「...それは」

「どうしてあの夜、無理矢理私を? 私があなたから離れようとしたときも、どうして引き止めたの?」

「姫乃、俺は」

「言い訳なら聞きたくないから! ねえ...先輩が触れるのは私だけ? 違うんでしょう? 私の知らない週末の一日、誰と会っているの? 私を抱き締めた後も、またすぐに誰かのもとへいってしまうんでしょう?」


 ああ、だめ。

 こんなことを云いたいんじゃない。

 本当は、心の奥底では、不安はあっても先輩はそんな最低な人間じゃないって信じてる。

 でも、勝手に溢れでてくる言葉たちは、私の感情を裏切り、先輩を傷つけている。


 わかってる。


 わかっているのに、今まで抑えていた感情の暴走が止まらない。






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