~秘メゴト~
 自分が立っているのが不思議だった。

 身体中の、すべての感覚が麻痺している。

 なのに意識だけはやけにはっきりとしていて、それが身体から離れていくような錯覚に陥った。


「姫乃。俺、お前に話していないことが」

「もう、いいの」


 木偶のように動かない重たい足を、じりじりと後退させる。


 もうこの場所に居たくなかった。


 もう何も聞きたくない。


 私が、壊れてしまう。


 愛しさで熱を帯びて張り裂けそうだった胸は、今では重く凍てついて、微かな衝撃にさえ粉々に砕けてしまいそう。


「姫乃、頼むから聞いて―――」

「いや!!」


 肩に触れ掛けた先輩の手を、咄嗟に強く払い除けてしまった。

 手がじんじんと痺れる。けれども、ちっとも痛くない。


「.....もう...いや。もうどうでもいい。私に構わないで...」


 溢れ出した涙がぱたぱたと足元に落ちていく。

 虚ろだった心に、その涙が火を点けた。




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