~秘メゴト~
 松本さんは、暫くしても上領先輩が部室から出て来ないので、諦めて立ち去った。

 松本さん、とても綺麗な人だった。

 すらっと背が高くて、スタイルが良くて、細かいウェーブの掛かった紅い髪がよく似合う、大きな吊り目が印象的な美人。


 …上領先輩ってば、冷たいなぁ…。

 あんな美人な元カノにでさえこうなんだから、その辺の女の子には…想像するにオソロシイ。きっと視界になんか入っていないんだわ。…私だって、同じ。

 マネージャーにさえならなければ、上領先輩にとっては私なんて、きっとただの道端の石ころに違いない。


 そんなことを考えて落ち込んでいると、上領先輩が部室から顔だけ出し、私を見て手招きした。


「…どうしました?」


 小走りで部室に近付き、問い掛ける。


「松本、帰った?」

「はい、ついさっき」

「さんきゅ」


 は〜っと 深い溜め息を吐いて、上領先輩はのそのそと出てきた。


「…いいんですか? 怒っていましたけど…」

「は? ああ。今度現れても無視していーから」


 そう云って、あっちいけのポーズのように手をひらひらさせる。


「でも…カノジョさん、ですよね?」


 しまった!!

 つい口をついて…!


 上領先輩はちらっと。鋭く、私を一瞥した。









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