~秘メゴト~
第4章 秘めごと

平和な山本家

 5月23日。

 午後8時。山本家では。

 夕食の温かく幸せな香りが漂っていた。


「おっ、今日はグラタンか! 嬉しいなぁ」

 少し前に帰宅した、父の馨がネクタイを緩めながらダイニングに顔を出した。

「そうよ〜、姫乃ちゃんが食べたいって云うから」

「なんだ。姫乃の為か」

 馨が拗ねて見せる。

 40歳を目前にして、まだ子供のような憎めない振る舞いをする馨を、瑛子は心底愛している。

 馨ににっこり微笑むと、瑛子は首を傾げて云った。

「でもね、その姫乃ちゃんがまだ帰ってこないの」




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