~秘メゴト~
 ―――風が歩いてくる。

 さらさらと流れる長めの真っ直ぐな髪。

 その黒髪は、光が射して蒼く輝いている。

 象牙色の滑らかな肌。

 深く高い鼻梁。

 薄めの口唇はきゅっと引き締まり、桃色を湛える。

 長く伸びた手足をグレイの制服が包み、すらりとした体躯を一層際立たせている。


 そのなか、何よりも姫乃の心を捕えて放さなかったのは、彼の青灰色の瞳だった。


 朝の光を受けて、そのブルーグレイの瞳は万華鏡のように様々な光彩を映し出す。

 引き込まれそうに奥が深く、不思議に透明に無垢に煌めく。



 ―――あの子だ。



 姫乃が未だ物心のついたばかりの頃に、哀しい別れを経験した可愛い仔猫。

 ふわふわの青灰色の毛並みで、ふんわりと胸のなかが温かくなる優しい感触の。

 青灰色の瞳をした、ロシアンブルーの仔猫。


 あの子のような、不思議に何もかもを見透かす水晶宛らの眼をした、綺麗な男の子。



 ふわり。

 ハート型の桜の花びらが胸に舞い降りた。

 どうしようもなく、胸が熱くなる。



 ―――彼に。

 姫乃は、一目で恋に堕ちていた。





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