~秘メゴト~
 姫乃がシャワーを浴び終えると、扉の外には有のタオルが置かれていた。

 他に纏うものもないので、おずおずとそれに手を伸ばし、身体を覆った。



 弾けたブラウスのボタンは、何とかブレザーで隠せる位置のものだった。

 手首の痕も、冷水で冷やしたら随分と良くなった。

 これなら、家族に気付かれはしないだろう。後は、私の演技次第…。

 笑わなきゃ、ダメだ。

 うちの家族はひどくのんびりしているように見えて、実は他人の感情の変化に敏感だもの。

 皆に心配掛けちゃう。

 しっかりしなくちゃ、すぐに気取られてしまう。

 私には、先程あったことを話す勇気も、誤魔化す賢明さも、ない。

 笑わなくちゃ。笑わなくちゃ。

 なにも、なかった。

 さっきのは夢なんだ。

 いつもの私に戻るんだ。


 何度も何度も自分に言い聞かせる。

 まるで呪文を唱えるように。





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