~秘メゴト~
 黒い鉄の門扉に護られる、煉瓦造りの建物が見えてきた。


「あ うち ここですから。…有難うございました」


 小さく頭を下げる姫乃を尻目に、有は門扉に向かう。


「…遅くなったの俺の所為だから…ご両親に謝っていくよ」

「えっ!?」


 あんなことのあった後に、両親と先輩を会わせるなんて。私、一体どんな顔すれば…。


 有は既にインターフォンを押した後だった。

 モニターを確認した両親が慌てて飛び出してきた。


「お帰り!」
「おかえりなさい」


 姫乃の両親を真っ直ぐ見据えて、有はゆっくり頭を下げた。


「こんばんは。上領です。今日は僕が姫乃さんを引き止めてしまいました。帰宅が遅くなって申し訳ありません」

「…えっ あのっ違うの! 私の仕事が遅くて…」

「姫乃」


 焦り、有を両親から庇おうとする姫乃を、父の馨がゆっくり制止した。


「上領くんと云ったね」

「はい」


 頭を上げ、有はまた真っ直ぐに馨を見詰める。


「確かに、今日はいつもより遅いから心配したよ。…一応女の子だしね。今後、遅くなるときには必ず連絡しなさい。…そして、必ず君が姫乃を送って来てくれるかな?」

「…はい。約束します」

「うん」


 これまで穏やかでありこそすれ、厳しかった馨の表情が一瞬にして緩む。


「ところで、上領くんの家は近いの?」

「はい。…ここから5分程です」

「そうか。なら安心だ」

「ねえねえ、上領くんも夕食一緒に食べていかない? 今夜はグラタンだけど」


 ふたりの遣り取りを黙って見守っていた母の瑛子が、たまり兼ねてご機嫌で口を挟んだ。




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