~秘メゴト~
 自室の白い扉を閉じる。

 月明かりに浮かび上がる見慣れた部屋。

 姫乃は安堵の吐息を漏らし、その場にくずおれた。


 ―――…怖かった。

 私、先輩が好きなのに。

 暗く光る先輩の冷たい眼は、私を見てはいなかった。

 私を抱きながら、何を見つめていたのだろう。


 ――…そう、私 先輩に…。

「―…っ」

 また涙が溢れる。ぽたぽたと膝に落ち、スカートに染みをつくる。


 ――はじめては、想いが通じ合えた大好きなひとと、幸せな気持ちで迎えるものと思っていた。


 なのに。


 無理矢理にこじ開けられた場所は、先程階段を駆け上がった振動で鈍く痛んでいた。


 ―…でも。

 無理矢理だったのに、私、嫌じゃなかった…。

 だって、先輩の激しい怒りに満ちたような眼は、何処か悲しげな色を湛えていた。

 その感情が行き場を求めて、私に牙を剥いたのではないだろうか…。


 強引で烈しく、怖かった先輩。

 と、想い出のなかの優しい先輩。



 何かが、違うんだ。



 あのとき、黒いうねりの奥で、先輩は何かに苦しんでいたのだろうか…?





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