~秘メゴト~
 その日から毎日、先輩は放課後になると私の教室へ迎えに来て、部活を終えると私を家まで送ってくれるようになった。


 それはあっという間に学園中に広まり、私達の仲はすっかり誤解されていた。

 私達が付き合っている、と。




『責任、とるから』




 あの夜、暗闇の閣議場で先輩が呟いた言葉。


 そんなものを、私は求めているのだろうか?

 そんなものを荷して、大好きなあの人を繋ぎとめておきたいと、私は思っている?


 そうなんだ。

 あんなことをされても、嫌いになれないの。

 彼のことを少しずつ知る度に、交わす言葉が増える毎に、私は彼を益々好きになっている。

 『スキ』の天秤は、どんどん重くなって、私のほうへと傾く。

 でもね。好きだから、判るの。

 彼は 私を見ていない。

 弾みで無理矢理開いた私の身体への責任に、堪えているだけなんだ。

 判っているから。


 もう解放してあげなくちゃ。


 一緒の時間を過ごす度に、どんどん彼を手離したくなる。

 そんなの、きっと狡い。
 私を愛してもくれないひとと、一緒にいても辛いだけ。

 隣にいても、彼は別の世界を見ている。

 なにかに囚われて、苦しみもがいているような、暗く凍てつく灰色の瞳。


 その秘密を解いて、彼を救い出す魔法の鍵を、私は持っていない。


 切ないけれど、どうしたらいいのかも判らないの。

 ただ、彼の固まった心の前でおどけるだけ。


 先輩を幸福にしてあげられるのは、きっと私じゃない。



 私の存在は彼を苦しめるだけ。


 だから。




 …解放、してあげなくちゃ。



 『私』という重い楔から。





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