~秘メゴト~
 家の前では、お母さんが門扉に絡まる薔薇の手入れをしていた。

 こんな遅くに。

 判ってるんだ、お母さんは『娘が美形なカレシに送られ家路につくシーン』を鑑賞したいだけなのよ。

 まったく、ミーハーなんだから。


「あらぁ。お帰りなさい」

 お母さんが明るく笑う。

「有くん、いつも有難うね」

 先輩はすっかり両親の人気者になっていた。

 面食いでミーハーなお母さんは、あんな美形の息子が欲しいと騒ぐし、しきりに夕食に誘う。

 先輩も断りきれずに、一度だけ、おにいちゃん抜きで食事をした。

 お父さんはとにかく晩酌の相手をさせたがっている。その度に私が怒るんだけれど。


 …いつか私が本当の彼氏を連れてきたとき、上領先輩以下だともう認めて貰えないんじゃないかと、ふと思う。

 そんなレベルの高い人なんてそうそういる訳がないのに。



 お父さん、お母さん。

 ほんとは、その人は私の彼氏じゃないの。

 仕方なく、お世話してくれているだけ、なんだよ。


 余り仲良くなられると、益々お別れが辛くなるよ…。



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