翡翠の悪魔~クライシス・ゾーン~
 ……そういう問題ではない。

むしろ、一番危険な魔物が野放しになっている。

 神に仕える聖職者だからか、生来の気質からか、乙女は疑うことを知らなかった。

リュートが覗きをするわけがない、と信じこんでいるのだろう。
事実一度も覗いたことはなかったが、結構な忍耐力を労しているとは気づきもしない。

 まとう装束の上からでもはっきりとわかるほど、かなりボリュームがある乙女のふくよかな胸。
あどけない顔立ちとのアンバランスさが魅力と言えるが……年ごろの青年には非常に悩ましいのだ。


 そんなことを口にできるはずもなく、こっそりため息をついた。


「手早く済ませろよ」


 嬉しそうにうなずいて本当に手早く装備を外し出した。

 こうも堂々と脱がれ始めると、こちらが目を逸らすしかない。一番近い木陰に移動し、湖に背を向けて腰を下ろした。


 パサ……
 ──髪を下ろしたのか。

 シュル……
 ──服を脱ぎ始めた。

 パシャン……
 ──湖に入ったな。


 細かい音がやけにハッキリと響く。あたりを警戒しなければいけないため、耳をふさぐことはできない。


(平常心、平常心……)


 心の中で呪文のようにくり返す。そんな言葉を唱える時点ですでに全く平常ではない。

 はた目には19歳に見えなくとも、彼は正しく19歳の健康男児だった。
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