翡翠の悪魔~クライシス・ゾーン~
 ほどなくして異変に気がついた。

 リュートはそっと立ち上がり、片手半剣をいつでも抜けるよう柄に手をそえた。

 左眼を閉じる。

 視界の狭い片目で探すより、それ以外の感覚を研ぎ澄ませたほうが空気は読みやすい。

 静かに流れる風が鋭敏な神経に無言で語りかける。

 ゆっくりと、何かが、近づいてくる……気配。

 敵意や殺気は感じない。魔物の類(たぐい)ではないようだ。

 出所を突き止め、カッと見開く。

 それは十数m離れた脇道にひっそりとたたずんでいた。湖のただ一点を見つめて。


「何をしている」
「ひっ」


 音もなく気配の正体に立ちふさがった。見下ろすと、背丈は平均的な成人男性くらいだが顔立ちはまだ少年のようだ。

 ──だが、そんなものは関係ない。こいつは立派に“男”だ。

 怒気を含んだ低い声で再び問いかける。


「何を見ていた?」

「あ……あ……」


 鋭い視線にからめとられた少年の気色(けしき)が、みるみる青く染まっていく。黒目がちの瞳をうるませ


「悪魔だ────っ!!」


 けたたましい悲鳴を上げて逃げ出した。
 一瞬虚を突かれたリュートはすぐさまハッとする。

 ──まさか後ろに
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