翡翠の悪魔~クライシス・ゾーン~
「ふりむいちゃダメえぇぇっ!!」
「!?」

 金切り声とともに大量の水しぶきが飛んできた。
見事顔面に直撃し、水もしたたるなんとやら。……いや、これはしたたり過ぎだ。

 これだけ元気に叫べれば何事もないのだろうと、まぶたを閉じたまま体を半回転。

 惜しかった……などという邪(よこしま)な考えがチラリとかすめたが。


「ご、ごめんリュート。さっきの声は!?」

「わからん。さっさと上がれ」


 背を向けたままで答えた。

 追いかけて問いつめようにも裸の彼女を置いていくわけにはいかない。

 すでに少年の姿は見えなくなっていた。どんくさそうに見えて逃げ足は速いらしい。
冒険者という出で立ちではなかったからカルシャンテの住人だろう。

 なぜこの森までやってきたのか。


『悪魔だ────っ!!』


 青ざめた叫びが鼓膜にこびりついていた。

 悪魔の特徴は、緑色の瞳。

 ──いや、それだけで悪魔と思い込むか? 緑眼など珍しくない。

 思いながらフッと笑う。


「俺が……そう見えたということか」


 自嘲気味につぶやいて、水でかすんだ視界を左手で覆(おお)った。

 瞳の色を隠すように……
< 12 / 29 >

この作品をシェア

pagetop