翡翠の悪魔~クライシス・ゾーン~
 突然現れた──そう表現したほうが正しい。

 ピクリとでも動けば集中攻撃されるだろう。後ろの者たちに追いつかれても同様だ。

 捕獲が目的だとしても不死身の悪魔に対しては容赦がない。

 先ほど襲ってきた矢の先端には全て、毒が塗られていた。
なんの毒かはわからないが、かするだけでも無事ではすまないと容易に想像できた。


(俺は不死身じゃないんだがな……)


 目を据わらせて薄く笑う。
 自分一人だけならば、まだやりようがある。


「リュート、逃げて!!」


 吊り網の隙間から、悲痛な叫び。

 視線だけを彼女に向ける。

 今狙われているのは自分だけだが、逃げても殺られても彼女の安全が保障されるわけではない。
戦う必要のない人間と殺り合うのも馬鹿げている。

 いよいよ背後に足音が迫り、もう迷う時間もないことを告げた。


 覚悟を決めて瞳を閉じる。
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