翡翠の悪魔~クライシス・ゾーン~
「被害は?」


 マスターはニヤリと笑い、詳細を記した羊皮紙(ようひし)に視線を落とした。


「器物損壊と怪我人は出たが、死人は出てないらしい」

「死人はいない?」

「な? “魔法が利かない不死身の悪魔”って言うとおっかなく聞こえるが、大したことなさそうだろ?」

「早計だな」


 また腕組みをする。

 被害が少ないわりに報酬が破格なのは個人ではなく街の自治体の依頼だから……と、つけ足され一応納得はした。

が、こんなふうにギルドがゴリ押ししてくる依頼に楽だった試しはないのだ。


「兄ちゃん、冒険者なら冒険しないとダメだぜ! まだ若いんだしよぉ!」

「歳より老けてて悪かったな」


 片目だけでジロリとにらんだ。もともと鋭い眼がますます鋭く吊り上がっている。


「……いや、言ってねぇし」


 年齢に関する話題はタブーだ、とマスターはようやく理解した。

 そのときカランカランと扉の鈴が軽快に鳴った。
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