翡翠の悪魔~クライシス・ゾーン~
「やろうよ!」


 先ほどのしおれぶりはどこへやら。空色の乙女はキッパリと言い放った。
 青年が眉間に縦じわを刻む。
 

「簡単に言うな」

「だって、ほかに目ぼしい仕事なさそうだし……その街の人すごく困ってるんでしょ?」


 もっともな言い分に、縦じわがさらに深くなる。


「お嬢ちゃんのほうが肝が据わってるねぇ!」


 二人の間で恰幅(かっぷく)のいい体にふさわしく豪快な笑い声を上げた。


 なるほど青年が渋っていたのはこの乙女のせいだろう。
 聞けば、彼女はまだ16歳で成人したばかりだという。

 パッチリとした瞳は穢(けが)れのないサファイアのようで、乙女の純粋さを映していた。
その大きな目を際立たせる小ぶりな鼻と、艶(つや)のあるさくらんぼのようなくちびる。
決して振るいつきたくなるような美人ではないが、頬のラインに幼さが残る愛くるしい顔立ちは庇護(ひご)欲をそそられる。

 だが……

 この青年とともに旅しているのであれば、普通の乙女ではないはずだ。
細い腰に小剣をたずさえ、まとう衣服には神聖な光のシンボルがついていた。
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