ラブリーバニーは空を飛ぶ
誘惑ブラッディ
今年は三月末になっても、酷く寒い。寒い上に乾燥している。…お陰で俺の唇はズタズタだ。
「…いたい…」
「どうしたの夏」
ぽつりと零れた言葉を聞き咎めた友人、三が問いかけてくる。
静かな図書館で勉強しているのだから、少しの呟きも向かい合った彼にはよく聞こえたのだろう。
カリカリと軽快に進んでいたシャーペンの音が止んでいた事に漸く気付いた。
「…唇…切れて、いた、い」
「空気が乾燥してるからね、…リップクリームか何か持ってないの?」
「…べと、ってして…気持ち悪い、から、持って、ない」
それに男が使ってるとこ見られるのも恥ずかしい。
思い切り眉を寄せた三の手がこっちに伸びてきた。白い指先が唇に触れてゆっくりとなぞる。
…此処が死角になる席で良かった。
男子学生二人で何してるんだ、みたいな話になったら困る。
「ほら、血」
「う、わ…そんな、ざっく、り?」
差し出された指先にはべっとり、と言うほどではないが確かに赤い液体が付着していた。