バックネット裏の恋
持ち場に戻ると、待ってましたと言わんばかりに山下智美が私に睨みをきかしてきた。
「何よその顔、怖いわよ」
「秋恵やっぱり沢村主任と何かある!」
「何もないわよ、しつこいわね」
そう言いながら品薄商品の確認に回る私の後を智美は金魚の糞のように付いてきた。
「だって今まで沢村主任と話してたじゃん!」
「シフトで変更してほしいところがあったから相談してたのよ」
「うそっ!」
「智美、しつこいわよ、仕事中」
「だって・・・」
智美の目からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
「ちょっとぉ、仕事中に泣かないでよ。ほらっ」
私はポケットからハンカチを取り出し、智美に突きつけた。
「お客様が来る前に、早く涙拭きな。あのねぇ智美、主任はもう結婚しているのよ、好きなのは構わないけど、叶わないわよ」
私はうつむきながら涙を拭っている智美に目もくれず棚の商品に手を伸ばしながらそう言った。それでも、智美は何も言おうとしない。
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