バックネット裏の恋
ドキドキする鼓動を沈めながら職員室のドアを開けた。
見渡した光景の中に鼓太郎の姿はなかった。きっとまだグラウンドにいるのだ。
「もぉ~面倒臭いなぁ」
独りブツブツとぼやきながらも外靴に履き替え再びグラウンドに向かった。
つい五分前に綺麗に均したその場所に人影はなく、夕焼けが私の立つマウンドを照らしていた。
「石黒先生、いる?」
そう小さな声で確かめた。
皆が彼を鼓太郎と呼ぶのに対し、私は彼を「石黒先生」と呼んでいた。
きっと意識し過ぎて皆のように気軽には呼べなかったのだと思う。
「石黒先生、いるの?!」
今度はさっきよりも大きな声で叫んだ。
「おおっ、ここにいるぞ」
その声はバックネットの裏から聞こえた。
半信半疑で近づいてみるとそこにはしゃがみこんで草取りをしている鼓太郎がいた。
「日誌、書いたから、職員室行ったけどいなかったから・・・」
「おお、サンキュ」
「手伝う?」
「いいよ、もう暗くなってきたし早く帰れ」
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