バックネット裏の恋
私服に着替えると私は足早に更衣室を出た。
今夜は月に一度の同窓会、毎月ローテーションで幹事を決めていて今月は私の番だった。幹事は集合場所に早めに着き、段取りよく仕切らなければならなかった。
社員通用口を出て駐車場に向かう途中、お客様らしき人たちを見送りに出ていた沢村主任が見えた。
「お客様なんて珍しいなぁ」
そう思いながら横を通り過ぎ駐車場に向かい、キーレスでロックを解除すると後ろから肩を叩かれた。
「お疲れ様」
「沢村主任!」
「通り過ぎるのが見えたから」
「あっ、お客様をお送りしていると思ったので声をかけずに来てしまいました」
「いいんだ、それよりどうしても滝沢さんに渡したいものがあって」
「はぁ・・・」
「来週の土曜日、草野球の試合があるんだ。是非見に来てほしくて」
私を追って走ってきたのか、沢村主任は少し息を切らしてそう言った。
「私にですか?」
「駄目かな?」
「駄目というか・・・そのぉ~なんで私なのかなぁと思いまして」
「“君に”来てほしいんだ」
沢村主任はそう言うとポケットの中で鳴っている携帯電話を取り出し、
「じゃあ、お疲れ!」
と手を軽く振り上げ私に背を向け走り去って行ってしまった。
一瞬の出来事に、頭の中で整理がつかず手渡された草野球のチケットを手に持ったまましばらく呆然と立ち尽くしていた。
胸騒ぎがしていた。


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