祈り 〜「俺とキスしてみない?」番外編〜
俺は、母が笑ったところを、見た覚えが、ほとんどなかった。
俺が物心ついた頃には、母は1日のほとんどをベッドの上で過ごしていた。
元々あまり丈夫でなかったらしいのだけど、嫁いでからは益々病がちになったと、誰かに聞いた。
今思えば、俺が浴びせられていたのと大差ない、もしかしたらそれ以上の言葉の暴力を、受けていたのかもしれない。
あの女……母の、夫の実母、つまり、俺の祖母に。
体と同じく、繊細な母の神経は、深い傷を負い、やがて体をも蝕んだのだろう。
俺が、母の笑顔を見た最後は、多分3歳くらいの時だと思う。
消えてしまいそうな、儚い、笑顔。
まるでこの世のものとは思えぬほど、綺麗で。
そして、囁くような、静かで、でも、優しい声で。
「うみと……大好きよ……
私の……かわいい海斗。
……どうか、あなたが、
愛する人に巡り逢えますように…………」
……それが、母の笑顔を見た、声を聞いた、最期、だった。
俺が物心ついた頃には、母は1日のほとんどをベッドの上で過ごしていた。
元々あまり丈夫でなかったらしいのだけど、嫁いでからは益々病がちになったと、誰かに聞いた。
今思えば、俺が浴びせられていたのと大差ない、もしかしたらそれ以上の言葉の暴力を、受けていたのかもしれない。
あの女……母の、夫の実母、つまり、俺の祖母に。
体と同じく、繊細な母の神経は、深い傷を負い、やがて体をも蝕んだのだろう。
俺が、母の笑顔を見た最後は、多分3歳くらいの時だと思う。
消えてしまいそうな、儚い、笑顔。
まるでこの世のものとは思えぬほど、綺麗で。
そして、囁くような、静かで、でも、優しい声で。
「うみと……大好きよ……
私の……かわいい海斗。
……どうか、あなたが、
愛する人に巡り逢えますように…………」
……それが、母の笑顔を見た、声を聞いた、最期、だった。