祈り   〜「俺とキスしてみない?」番外編〜
母は宿った命を奪うに忍びなく、体面を考えた両家の合意のもと決められた結婚を受け入れた。

まだまだ遊びたい盛りだった父の方は、自業自得のくせに、望まない結婚を強いられたと、母をないがしろにした。

たった一人、婚家での針のむしろのような生活……それが、どれほどつらいか、俺にはわかる気がする。

俺も、また。



一人ぼっち、だった。



まだ、母が生きていたうちは、言葉でいびられるだけで済んでいたけれど。

母がこの世を去り、祖母はしつけの名のもとに、いつも尻を、あざになるほど叩かれ、つねられた。

全裸にならなければ、分からない場所。

俺の世話をするものは、皆、家の使用人だから、だれもが見て見ぬふりをした。

やがて、父が新しい妻を迎え……今度は、祖母も気に入る、格式ある家の娘だった……俺にとっては半分血のつながった妹が生まれた頃から、祖母の虐待は減った。

優しくなったわけではない。

単に、興味が妹に移っただけ。

そして。

さらに続けて弟が生まれた時から。




……俺は、全く、いないものになった。







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