永遠なる誓約
トントン
「……ソフィーリア、入って良いかしら」
小さくノックをして部屋に入ってきたのは異母姉妹のミトラ。
ミトラの母親は彼女を生んで直ぐに亡くなり、代わりに私のお母様が母親として接していた。
だから私にとっての彼女は、本当の姉のように大切な存在だ。
ルナティア皇帝との婚約が決まってからというもの、いつも私を心配していたミトラは哀しげな表情を浮かべながら私を強く抱きしめてくれた。
その優しい温もりに、思わず目頭が熱くなる。
「可哀相なソフィーリア…。平和のためとは言え、貴方だけが国の犠牲になるなんて…やはり私は納得出来ないわ」
自分の事のように嘆き哀しみ、泣いているのか僅かに声が震えている。
「…私なら平気よミトラ。13年前平和条約が締結されてから、とうに覚悟は決まっているもの」
彼女の言う通り、確かに嫁ぎ先については数知れない不安がある。
だけどこの国の政治の道具に過ぎない私には、国の決めた事に対して選択権なんて無い。
不思議と…そう割り切ってしまえば、気持ちが少しだけ楽になったような気がする。
ミトラは涙を拭い、精一杯の笑顔を浮かべて言った。
「…せめてソフィーリアがルナティアで幸福になれるよう願っているからね」
優しい彼女に、これ以上の心配をかけられない。
だから私はミトラの言葉に微笑みを返して浅く頷いた。
「ありがとう…。大丈夫、噂は噂に過ぎないもの。きっと皇帝は素敵な方だと思うわ」
実際、ルナティアの皇帝がどんな人間かなんて分からない。
噂通りの最低男だろうと、そうでなかろうとも。
どちらにせよ…その人を愛する事なんて一生できないのだから。
ただの直感だけれど。
『幸せは自分で掴み取るもの。良い機会を逃せば、同じ幸福は二度とやってこないのよ』
それが、私が10様の時に亡くなったお母様の口癖だった。
ルナティアの皇帝に嫁ぐ事は…私にとって良い機会なのか。
私は本当に幸せになれるのか。
そんな答えのない疑問を胸に、眠りについた…。