日本女児VS肉食獣
PROLOGUE
ある冬の日。
1人の赤ちゃんが産まれた。
その子は大層可愛がられ、歳を老うごとに、端正な顔立ちになっていった。
『雪乃介!!お前は、日本男児になれ!』
『雪ちゃん?貴女は、大和撫子になるのよ!』
何度もなんども、17年間言われ続けた両親からの言葉。
しかし……
日本男児なんて、最初から無理な話だった。
だって、その子は女の子だから。
だからといって、大和撫子になれるわけでもなかった。
“雪乃介"という男っぽい名前、昔から父に教わり続けた武道。
切れ長の瞳に、鼻筋はくっきり。薄い唇で整った顔立ち。
これのせいか、彼女は女には見られなかった。
勿論、母から教わった茶道や、華道…料理。大和撫子になる為にも、いろんなことをやらされた。
しかし…どうしても日本男児と大和撫子のどちらかにしぼれない、曖昧な自分とも向き合うことができずにいた。
進むべき道が、わからなくなっていた。
……だけど、自分がまさか、普通の女の子のような恋愛をすることになろうとは…自分自身、気付かなかった。
いや、気付きたくもなかった。
僕は、あの瞳に見つめられ…
蜘蛛の巣に引っ掛かってしまった。
まるで1匹の、力の無い蝶のように…