貴様!何様?会長様!?
そこでふと、動きを止める。
そう言えば私、お礼の1つも言っていない。
それこそ礼儀だろう。
私は壁から飛び降り、さっきのベンチへと戻った。
「あのっ、すいません!」
謝りながら、ベンチを覗き込む。
「…何?」
本を顔に乗せたままの状態で、彼は返事をする。
「私、このお庭の事は誰にも言いません。それと―――」
そこまで言うと、また少し強い風が花びらと共に吹き抜けた。
なびく髪を手で抑えながら、
「ありがとうございました」
と、笑顔で言った。
顔は見えないけれど、本の下の顔が少し動いたのが分かった。
たとえあの人がどんな人でも、少しでも親切にしてもらったのなら、お礼を言って当然だ。