サボタージュ
 家の電気がついている。

 「おはよう」

 部屋の奥で、確かに、そう聞こえた。誰もいるはずのない部屋から。

 「誰だ」とっさに、そう言ってしまった。泥棒に名前を訊くなんて、僕の人生には絶対に起きない事だと思っていた。

 「栗山。あだ名は君にお任せするよ」

 栗山と名乗る男は、見た目からして三十代前半。そして、僕の部屋にあった、せんべいを食べている。

 こんな人間、見たこともない。だったらなぜ、ここにいるのだろうか。

 「何でここにいるんだよ」恐る恐る、栗山に訊ねる。

 「泥棒、空き巣、盗人。さあ、どれでしょう」

 まるで、クイズの司会者のように声を出す栗山は、伸びた背筋で、きちんとした背広を着ており、クイズの選択肢にサラリーマンがあったら、それだと答えていただろう。

 だが、この三択なら答える必要はない。栗山がどれであっても、対処法は一つしかない。

 「警察を呼ぶからな」
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