土偶伝説
 教室の扉が開いた瞬間、俺はベッドの上にいた。
 そして手を握りながら泣いてる母親と兄が俺を見ている。


「えっ? 俺は一体……」


「やっと気付いたか? 痛みはないか?」


 兄は、安堵した様子でそう訊いた。


「兄貴、俺は一体どうしたんだ?」


 そう問うた瞬間、全身に痛みが走った。


「無理もないわ。こんなに大怪我したんですもの。でも良かった。本当に良かったわ」


 母親は涙ながらに俺の手を強く握る。


「覚えてないのか? お前は事故に遭って、今まで意識がなかったんだ、無理もないか」


 兄の云ってる意味が分からなかった。

 事故に遭ったって、いつ事故にあったのだろうか。教室でクラスメートがにじりよって来て、扉が嘘みたいに開かなくて、それで土偶の笑い声が響いていて……。


「卒業遠足で、バスが崖から転落したんだよ。大怪我はしたけれど、お前は助かった。生き残ったのはお前だけだったんだよ」


 兄は、そう云うと目を伏せた。
 兄の云うことが事実なら、じゃあ、池田や土偶や皆は?


「皆その事故で死んだって云うのか?」


 俺が搾り出すような声で兄に訊くと、兄は無言で頷いた。そして、事故の詳細を説明してくれた。


「即死だったのがほとんだだった。でも本当はな、池田君とリカちゃん、エミちゃんとタエコちゃん。お前と仲が良かった四人は重体で運ばれてきたんだ。でも昨日の夜、急に容態が悪くなって……。不思議なことに、ほぼ同時に亡くなったんだ」

 そんな……俺だけ助かったのか……あれっ、土偶は?


「兄貴、土偶は? 俺のクラスにいた森田、ほら色の黒い幼稚園から俺と一緒の」


 俺がそう訊くと、兄は不思議そうな顔をして答えた。





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