空間ラヴァーズ
上司との会話を耳にした同僚の南結花がニヤニヤしている。
結花は、綾香と同じ年だが綾香は短大出だから、キャリアは綾香より少ない。
だが気の合う二人は、お互い同期の友人よりも仲がいいのだ。
背が小さくて可愛らしい結花は、部署にひそかにファンがいるほどだ。
デスクに戻ると、結花がニヤニヤしながら書類を配りにきた。
「おはよ。何よ、その顔」
「確かにやることはないなって思ってさ」
「うるさいな〜」
「あたしには、絶対そんな生活なんてできない」
「あははっ!そうかなぁ」
「笑い事じゃないから」
『そんな生活。』
そう、加納 綾香の生活は普通の人とはちょっと…いや、大分違う。
彼女には、固定の家がない。
彼女の家は、『漫画喫茶』なのだ。