蝕む月と甘い蜜


「写真に興味があるの?」

「……いや」

「じゃ、私に興味があるの?」

「……何の話だ」

思わず顔をしかめた櫂斗に
冗談よ、と女性は笑った。

「あ、いけない」

小さく声を上げて女性が橋の
真ん中へと戻る。
首に下げていたカメラを彼女は
川へ向かって構えた。

夕方の光が女性の白く
透明感ある肌をオレンジ色に
染めていた。

無意識に櫂斗は車から降りた。

女性の横に立って
彼女の視線を辿る。

陽の光を反射する水面に淵を
囲むように生えた丈の長い草、
道路の脇に植えられた木々が
サワサワと揺れていた。

カシャ、カシャ、と
シャッターを切る音が妙に
大きく響く。

「光の階段みたいでしょ」

声がしたので彼女の方に
視線をやったが、彼女は
ファインダーから顔を
外したまま川を眺めていた。

「建物の間から抜ける光が川に
映って階段みたいに見えない?
自然って毎日変化してるから
毎日見てても飽きないの」

じっと横顔を見ていたら不意に
こちらを向いた女性とまともに
目があった。




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