蝕む月と甘い蜜
「女には扱いが
大変じゃないか?」
櫂斗の言葉に
女性は柔らかく笑った。
「…君が思ってるより
女って案外強いのよ」
ザァッと強い風が2人の周りの
空気を勢いよくさらっていく。
櫂斗は強い衝撃を受けたように
その場に呆然と
立ち尽くしていた。
風の音が遠ざかる。
辺りには微かな水音が
聞こえるだけの静けさが
戻ってきた。
「…」
薄く口を開きかけた櫂斗よりも
先に静寂を破ったのは彼の
ポケットの中の携帯だった。
普段動揺する事のない櫂斗の
心臓がビクッと跳ねる。
電話に出ながら
女性を横目で見た。
ぼんやり遠くの景色を見つめる
女性は、体の線も細く
強いというよりは儚いという
言葉の方が似合う気がした。
手短に電話を終わらせ、
もう行く、と女性に声を掛ける。
さよなら、と女性は答えた。
それ以上話す言葉は見当たらず、
車に乗り込んで
櫂斗はその場を後にした。