蝕む月と甘い蜜
仕事の依頼
早坂乃愛(ハヤサカノア)は肩に
掛けていたショルダーバッグを
ドサリと玄関に下ろした。
壁のスイッチを押すと
真っ暗だった部屋に蛍光灯の
明かりが灯る。
いつもなら簡易で作った
風呂場兼暗室に直行するのに
今日はそのまま部屋へと入った。
備え付けの家具が綺麗に
配置された、
作られたような部屋。
少しお金はかかるけど
便利で気に入っていた。
乃愛は上着も脱がずにベッドに
寝転がった。
ぼんやりと天井を見上げながら
昼間の青年を思い出す。
フッと乃愛は笑いを漏らした。
「……不思議な人」
割と背が高めの自分が
見上げるくらいの長身に、
黒のストライプのスーツが
とてもよく似合っていた。
自分よりまだ若そうだが、
立場上のものなのか大人びた
落ち着いた雰囲気があった。