蝕む月と甘い蜜


席に座っても
まだ自分を見ている前原に
乃愛は苦笑いする。

「いや~、こんなに綺麗な
人とは思わなかったなぁ」

「…何か食べます?」

「いや、コーヒーを…」

言いかけた前原が店員を
つかまえて注文した。

「お会いできた甲斐があります。
…あ!…前原圭介です」

「早坂乃愛です」

お互い名刺を交換して
軽く上げた腰を元に戻す。

「あの、仕事の依頼って…?」

自分を見つめたままなかなか
話し出さない目の前の男性に
仕方なく話を振る。

前原は慌てたように鞄を
探ってパンフレットと
依頼書を取り出した。

「東條カンパニー?」

まだ記憶に新しい
ロゴマークを表紙に見つけて
思わず乃愛は呟いた。

「これは参考にと
持ってきたんですが、今回
ウチで出してるビジネス誌の
特集に東條櫂斗氏を
取り上げようと思うんです」

前原がパンフレットの
ページを忙しなく捲る。





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