蝕む月と甘い蜜
示した指の先には昨日見た
青年の顔写真があった。
「それで今話題の写真家である
あなたにお願いしようかと…」
乃愛は思わず顔を上げて
前原を見た。
「…わたし、人は
撮ってないですよ?」
「え?」
前原も目を丸くして顔を上げる。
しばらく妙な沈黙が続いた。
「けど、僕、早坂さんの
個展に行きましたけど、
人物もありましたよ?」
「人をメインにした事はないの。
……悪いけど…」
言葉の続きを口にする前に
前原にぎゅっと両手を握られた。
「ならぜひ、僕に早坂さんの
初めてを下さい!!」
熱い眼差しから逃れるように
乃愛は左右に視線を巡らせた。