蝕む月と甘い蜜
2人をのせたエレベーターが、
静かなモーター音と共に
上へと上がっていく。
沈黙が包む中、背後の櫂斗を
気にするように女性が後ろを
チラリと見た。
櫂斗もそれに気づいて顔を
向ける。
視線が絡んだ瞬間、
櫂斗の足が前に出た。
カツンと靴の音が
タイル張りの床に響く。
壁に女性の身体を
押し付けるようにして
櫂斗は唇を奪った。
耳の裏を指でなぞると彼女の
身体が小さく跳ねた。
一瞬感じる浮遊感。
ポーンと音がして
エレベーターの扉が開く。
「今夜、7時に僕の部屋で」
耳元で囁くと桃色に顔を染めた
彼女は無言で首を縦に振る。
そうして閉まりかけの扉の間を
すり抜けるように出て行った。