蝕む月と甘い蜜
数日前と同じ道を辿る。
緑の葉が揺れ動く木々が地面に
濃い影を作っていた。
ブラウンのボディの
ネイキッドと呼ばれる
オートバイを遠目に見ながら
櫂斗は車のスピードを
少し緩めた。
薄く色のついた窓を開けると
夕暮れの、横からの
強い日差しと乾いた風が
車内に入ってきた。
櫂斗に気付いた女性が
車の方へと歩いてくる。
「ごめんなさい、すぐ退かすわ」
「…学習してないな、君は」
「ここ滅多に車通らないのよ。
そういう君の車が本日3台目」
逆光の中、女性が
微笑んだのがわかる。
今日も頭の後ろで一つに
纏められた髪が風に靡いていた。
女性の身体には大きく重そうで
不釣り合いなオートバイを
彼女はうまく操作して
橋の方へと押していく。
「さ、どうぞ」
振り返って言う彼女の言葉を
無視して、
何を撮ってるんだ、と
櫂斗は聞いた。