四 神 〜 しじん 〜
序 章   誕生
 一年を通じて暑さの染み渡るこの土地では、今宵入り乱れる人々の慌ただしさに、いつにも増して熱気が籠もっていた。

 建物内の一室、隣接する重々しい扉の前では、幾人もの次官達が何かを願うかのようにせわしなく部屋を行き来している。


「遅い…まだか…」


 イライラと自分の爪を噛みながら、年の頃50を過ぎようとする男は急くように呟き、朱の衣を翻しながら椅子から立ち上がった。


「王よ、このままでは王妃が…」


「・・・・・・・・・」


 部屋の隅で窓越しに、もうすぐ日が変わろうとしている暗闇を紫の衣を纏った老人が再度眺め、王と呼ばれた朱の衣の男に言う。

 王は既に半日以上もの間、閉ざされたままの扉を無言で見つめ、この日数えきれないほどのため息をついた。


「待ちに待った我が世継ぎ…何故出て来ようとしない…」


 呻くように呟かれた王の言葉は、張り詰めていた部屋の空気をより一層緊張させる・・・。


「 王 !!! 」


 そんな空気を破るかのように、荒々しく室内の扉が開らかれると、男が一人部屋に飛び込んできた。


「何事だ!!」


 苛つきを隠せない王は、つい王独特の威厳のある声でその男を怒鳴りつけてしまう・・・。

・・・が、男はそんな事に気付きもしないほどの動揺ぶりで、王に今最も重要であろう用件を伝える・・・。


「神薙(かむなぎ)様の夢見が届けられました…」


「 !!! 」


 慌ただしかった室内の空気が一瞬で凍りつく…。

部屋にいる者達全員、言葉を忘れてしまったかのように、一斉に黙り込み・・・


・・・やがて、一人のうめき声をきっかけに、大勢の騒めきが部屋一面を覆いつくした。



“巫女”である神薙は、夢の中で未来を預言する夢見…
齢何年かも判らないほど長命の彼女は、他者との接触を一切たち、僅かな神官と共に暮らしている。
そして、盲目の彼女に映し出される夢での預言は、時代の節目に告げられる重要な出来事だった。

 その夢見が今、世継ぎを待つ王の元へ届けられたのだ。
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